血だらけになっても飲む夫
アルコール依存症の夫との間には、様々な身体的な損傷が出るバトルもしましたが、その中で一番大きかったのは、まだまだこの症状のことを知ってから、まだ全然初期の頃の、「グラス事件」です。
長いストーリーではありません。
私は夫が飲み続けていたことにイライラいました。イライラし過ぎて、自分でもどうかなってしまうんじゃないかってほどに怒っていました。
私は、「私は、こんなに傷ついている。怒っている。悲しんでいる。」ということを夫に分かってもらって欲しくて必死でした。
「夫が私を愛してくれているなら、飲まないはずだ」的な考えがその時はまだしっかりありました。
今は、そんなことを思っていた自分をなんか微笑ましく思うほど、完全にその考えからは抜け出すことができました。
私は、怒りを表すために衝動的な行動をコントロールできませんでした。
そして、夫のグラスを奪い取り、台所のシンクに向けて、3回たたきつけたのです。
右手でグラスを持ったまま、シンクに打ち付けるということが、どんなに危険なことかも冷静になれば、想像がつくのに、もう正気を失っていました。
グラスは当然割れ、(シンクも凹むくらいの勢いでしたから)ギザギザの鋭いグラスが、手に勢いよく突き刺さりました。
当然、私の手は真っ赤に染まり、止まらなくなりました。
人生において、本当に出血が止まらないなんて経験をしたのは、後にも先にもあれが最後です。
ドクンドクンと流れ出てくるのをみると、私は冷静になり、必死でタオルで止血しました。
でも、全然間に合いませんでした。夫もパニック状態でした。
夫は泣きそうになりながら、ものすごく助けようと必死になっていました。床も赤くなって、ドラマみたいでした。
その日は休日だったので、仕方がないから、タオルで全力をこめて片方の手で抑えながら、結構歩いて、急患の病院に行き、その場で縫ってもらいました。
・・・
私がその後、家に帰って、夫は、私が病院に行っている間、コンビニへ行って、お酒を買っている事実を知りました。
これ、今だからさらっと書いていますが、当時は自殺したくなる気分でした。
私は本当に、本当に、アルコール依存症はどうしようもないんだという事実を突き付けられました。
今は、むしろあの時点で、「あれだけお酒を強く飲まさせる原因(私が狂気の沙汰になって、シンクにグラスを打ち付けるという)を私が作ったのだから、むしろ、彼がお酒を飲まないほうが不思議」くらい、アルコール依存症者にとって、飲む原因となる「自責の念」を増やしてしまったことがわかります。
アルコール依存症は強迫的な飲酒です。
飲みたくなくても、自分ではどうしようもできない状況に陥ってしまい、本人も地獄の中にいます。
それに対して、周りの人が、自分本位な勝手な憶測と策略で打ち勝つことはできません。
落ちたら自分も死ぬくらいの深い深い井戸に落ちてしまって、そこから助かるには、本人が少しずつ、登り始めて、ついには地上へやってくるのを、待つしかないのです。
そして、待つ間、何も家族はずっと井戸の中を覗いて、見守る必要は全くなく、広大な大地を走り回りながら、人生を楽しめばいいのです。