夫が玄関を使わずに家を出た日のこと
しばらくエピソードを書いていなかったので、久しぶりにエピソードを書きたいと思います。
夫がアルコール漬けだった頃、休日で、2人共が家にいる時に起こったことです。当時の私は、頭の中では、「自分は好きに出かけて、好きに楽しめばいいのよ」と語りながら、絶えず夫のことが頭から離れず、「楽しくても楽しくない」みたいな感情をいつも持っていました。
夫と2人で家にいることは、飲み続ける夫と共に過ごすことなのに、なぜかホッとするという逆説的な感情を持っていました。それは少なくとも、夫がどうしているのか、何をするのかを「知ることができる」ということに、偽りの安心感を覚えていたんだと思います。
監視でした。
家の中でも、私は2階で、部屋を別にして時間を多く過ごし、夫は一人でソファに座って、ゲームをするか、映画を見るか・・・そんな感じでした。
もし、夫が玄関を開け閉めしたら、2階にも振動を感じて、私はいつもその音を聞くことができました。そして、心の中で、その音が聞こえないように、聞こえてないかなどと、何処か耳を澄ましている自分もいました。
今思うと、相当、囚われていたと思います。
そして、今回書こうと思ったエピソードは、夫はその日、玄関を使わなかったという話なんです。
その日、私は1階へ行くと、夫の姿が見当たらなかったんです。トイレかな?と思ってもいないんです。あれ?と思って、玄関に行くと、靴がないんです。
何年も前のことなので、記憶が少し曖昧になっているのですが、確かその後、私は一旦、2階に戻ったんですね。
そして、しばらく経って、再び、1階へ行くと、夫はいるんですね。なんで夫が玄関に靴を戻さなかったのかは不明ですが、台所の横にサッシがあって、そこの窓を開けて、地面を見ると靴があったんです。
その日、夫は玄関を使わずに移動したんです。
書くまでもないと思いますが、
行き先:コンビニ
入手物:1リットルの焼酎
です。
その後、私が夫に対して、どういう態度に出たのかは、記憶がなくて、全然覚えていないのですが、少なくとも、あの日以来は、玄関を使わずに家を出ることなんて一度もありませんでした。
私の中に、夫は玄関を使わず家を出たという記憶は強烈に残りました。
あの時、
そうか、玄関から出て、バンと音がして、その振動音を聞くたびに、私が一階へ駆け降りて、分かっているのにも関わらず、いやらしく「どこへ行くの?」なんて聞き、何度もそのやり取りを繰り返してきた夫は、入手物を得るために、私が2階を陣取って、耳を澄ましているならば、台所の窓枠から出るしかないと考えたのだ・・・そして、何よりも、そこまでしてまで手に入れる、入れないわけにはいかない状態なんだ・・・
と悟りました。
すごく私の中で色々なものがガタガタと崩れたんですね。よく家族はコントロールできないと言いますが、本当にできないんだな・・・と。
妻に気づかれないように、盗人のように、靴を移動して、そっと窓枠から出ていく・・・そんなことをよくやれたものだと思うと同時に、そんなことしないといられないまでに、どうしても手に入れないと収まらない衝動を抱えているんだな・・・この人は・・・
と、すごく痛感しました。
お酒を手に入れるためなら、何でもする
というのが、初めて心から理解できた瞬間だったと思います。